ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・敵陣の中心で愛をさけぶ
……いったい、何時間歩いただろう。
幸いにもカフカは現れず、たまに現れる魔族を倒しながら、やっと一行は風の樹がうっすらと見えるところまでたどり着いた。
しかし。
「あのう、これって……」
岩陰に隠れたまま、仁菜がたずねる。
森の入り口から見えた時は、先の尖った山なのかと思った。
しかし近づくにつれ、それは山の形をした、黒い石でできた建物だと気づいた。
高さは東京スカイツリーくらいで、そのだいぶ上の方に、木の枝みたいなものが見える。
「推測の通り。
ここは魔王の城で、あの城中庭園に、風の樹はある」
木の枝はまるでクリスタルのように透き通っていて、日の光を反射し、七色に輝く。
遠すぎてさすがに樹の実までは見えないけれど、仁菜はすでにくらくらした。
「そういうことは、ちゃんと言っておいてくださいよ!
樹だって言うから、あたしはてっきりその辺に生えているものだと……!
まさか、まさかあんな、敵陣の中心にあるなんて~!」
とんだ誤算だ。
ううん、この旅が始まってから誤算だらけだけど。
誤算しかないと言っても過言ではないけれど。
「だって、聞かなかったじゃない」
ラスはしれっと答える。