ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「今のうちだ!」
颯の差し出した手をにぎる。
すると颯は、敵がいないことを確認し、上階へ繋がっていると思われる階段を、昇りだした。
(もう、勝手なんだから……)
俺がお前を幸せにするなんて。
(そんなこと言ってくれるの、颯だけだよ)
予言も何も関係なく、自分を求めてくれたのは、颯だけだった。
彼の告白には、余計な飾りもない代わりに、計算も交換条件もない。
(あたしに幸せにしてほしいなんて、言わないんだね)
走りながら、仁菜は泣きそうだった。
ちょっと強引で自分勝手だけど、颯のことだけは心から信じられる。
おバカだけど、嘘はつかない。
気は利かないけど、自分をよく見せようとか、他人に無理に気に入られようとすることもない。
そんな正直でまっすぐな颯の背中が、まぶしく思えた。
それとは正反対に他人の顔をうかがってばかりの自分の、どこを好きになってもらえたのか、さっぱりわからないけど。
(ありがとう、颯)
大好きだなんて、なかなか素直に言えそうにないけれど。
それでもこの手だけは、離さないようにしなくちゃ。
仁菜は涙をこらえ、全力で走った。