ヤンキー君と異世界に行く。【完】
途中で、何体かの魔族に出会う。
しかし仁菜たちは幅の狭い階段を昇っているため、包囲されるということはなかった。
上から下から迫る敵を、颯が楔の聖剣で斬りつける。
仁菜も伝説の剣を取り出してはみたものの、やっぱり重くて扱えない。
「誰かを傷つけるっていうのは、向いてないみたいだな」
颯は苦笑して、敵を一手に引き受ける。
仁菜は精霊の盾で敵の攻撃から自分たちを守ることに専念した。
魔族は盾にはね飛ばされると、砂漠の民たちのように失神する。
そんなこんなで、足が痛くなって震えても、仁菜たちは階段を昇り続けた。
「ラスたち、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ。
あいつらが元気に敵を引きつけてくれているから、城の中がこれだけ手薄なんだろ」
「そっか、そうだね」
息も切れ切れで、胸が痛い。
喉はカラカラで、ヒザもガクガク。
いつまでこの階段が続くんだろうと思った仁菜の前で、突然颯が立ち止まった。
「颯?」
「ニーナ、階段が……」
前方をのぞいてみると、階段が終っていた。
広い踊り場があり、その奥にはいかにもラスボスがいそうな、重厚な扉がある。
「……あれっぽいよな?」
「あれっぽいね……」
たぶんこの先が城中庭園だと、仁菜は思った。
どこからか、緑や土の香りが漂ってくるからだ。