ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「……しょうがねえな。
今は時間がねえし、あとでゆっくり聞かせてもらうことにするわ」
なんて余裕があるようなセリフなのに、仁菜の耳に聞こえる颯の鼓動は、だいぶ早いような気がした。
(なんだ……颯も、あたしと同じだ……)
慣れていなくて不器用だから、やり方は違うけど、恥ずかしさをごまかしているのは一緒。
そう思えば少し安心して、ゆっくり腕の力をゆるめられた仁菜は、自然に颯の顔を見ることができた。
颯は少し赤くなっていて、照れ隠しに微笑む。
そして、仁菜の手をにぎって、静かに言った。
「これから先、なにがあっても俺のことを信じてくれ」
「うん」
「もう、裏切ったりしないから」
「うん」
「大丈夫だから」
少し痛いくらいに握られた手が、どうしようもなく愛おしい。
「大丈夫。
この先どんな世界が待ち受けていても、俺は変わらずにお前の隣にいるから」
颯の黒い瞳に、自分だけが映っている。
(ああ、どうかこれからも、彼の瞳に住めるのは、あたしだけでありますように)
リアルはキツイ。
元の世界でも異世界でも、大人でも子供でも、つらいことは平等にあって。
正直くじけそうになってばかりだったけど、そのたびに颯が手を差し伸べてくれた。
自分はその手を離さないようにする。
それだけで、仁菜は無敵になれるような気がした。
……異世界上等、喧嘩上等。
立ち向かってやろうじゃない。