ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「あの、どうしてもダメですか?」
「ダメだ」
きっぱりと言うカフカ。
けち。樹の実一個くらい、くれたっていいじゃない。
そんな仁菜の気持ちを察したのか、カフカはゆっくりと口を開く。
「お前たちは風の樹の実が本当はどんなものか、知らないだろう。
風の樹になる実は、たったひとつだけ。
それも、その実をとってしまうと、次の実ができるまで、何百年もかかるんだ」
「え……」
「それはお前たちが求めているだろう、大地再生の力は確かに持っている。
だけど、俺たち魔族もその実を自らもぐことはしない。
自然に落ちるのをじっと待って、落ちたそれを大地に埋めた。
そうして何千年、何万年かけてこの森を維持してきたんだ」
カフカは続ける。
もとは魔界も、荒れ果てた大地だったのだと。
「でも……今はもう、必要ないでしょう?
こちらにはじゅうぶん、植物があるじゃない」
見渡す限り、森、森、森。
そんな魔界だから、入り口からこの城までバイクで来ることもできなかった。
「それでも、樹の実は渡せない。
なぜ短期間で自らの世界を崩壊に招いた愚かな人間に施しをしなければならない?
人間は植物たちの悲鳴が聞こえていたはずだ。
それを無視し続けてきた結果がこれだろう。受け入れろ」