ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「だって、まだそこには人間が生きてるんだ。
笑ったり、泣いたり、苦しんだり、悩んだりして、みんな生きてる」
「颯……」
「あの世界はぶっ壊れてるかもしれねえけど、あの世界の人間はまだ壊れてない。
バリバリ一人の女を愛したり、
器用貧乏って言われても他人のために一生懸命仕事をしたり、
だれにも理解されていないのにそれでも自分の国民を守ろうとしてたり、
そんなバカな王子を命がけで守ろうとしているやつもいる」
それって、まんまあの人たちのことじゃない。
見上げると、颯は笑っていた。
「な、渋いだろ?
人間も捨てたもんじゃねーんだよ」
「あきらめないって言うのか?」
「もちろん!
仲間と約束したからな!」
何の迷いもなく颯が言い切ると、カフカがにっと笑った。
「ならば……戦え、人間」
戦闘になる。
仁菜が胸の石をにぎりしめると、颯が小さな声で言った。
「お前は手を出さなくていい。
俺があいつを引きつけるから、お前は風の樹に向かえ」
仁菜はハッとする。
カフカの背後に、らせん階段があった。
そこからかすかに風が吹き、土と草のにおいが漂ってきている。
扉の前で感じたのは、この気配だったんだ。
この上が、庭園になっている。風の樹があるはず。