ヤンキー君と異世界に行く。【完】
戦っている二人を注意深く観察する。
カフカは一見、颯の方に集中しているように見えた。
だけど、戦況はやはりカフカの方が優勢だ。
颯も反撃してはいるが、片手のカフカの方が、まだ少し威力が大きい気がする。
(行ける、かな……)
どくどくと、心臓が鳴る。
仁菜は足が速い方じゃない。
どっちかというと、遅い。
でも、すきを見て自分だけでも上に行った方がいい気がする。
風の樹の実さえ手に入れれば、カフカに勝たなくてもいい。
颯と二人、一目散に逃げきればいいのだから。
それでも、いざとなると足が動かない。
もしカフカがこちらに気づいて攻撃してきたら、と思うと怖い。
(颯……)
すがるように颯の方を見ると、彼は気づいたように、激しい打ち合いの中で、一瞬だけ仁菜の方を見た。
目が合う。
すると、颯の二重の下の黒い瞳が、「行け」と言っているように見えた。
(……わかった!)
仁菜は小さくうなずくと、階段の方へと駆け出した。
「待て、小娘!」
カフカの声が響く。
恐ろしくて身がすくみそうになった。
その瞬間。
「行け!ニーナ!」
颯が叫んだ。
カフカがそちらを鬼のような顔で振り返る。