ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ずきりと、胸が痛む。
颯の言葉は、今までの自分に投げかけられているようだった。
周りに流されてばかりの自分のことが大嫌いだった、自分への。
「大丈夫だ。
文句言うやつがいたら、俺がぶっとばしてやるから」
颯は昔と変わらない笑顔を、仁菜に向ける。
「だから……前を見て走れっ、ニーナ!」
前を見て、走れ。
そう言われた途端、はじかれるように自分の体が動くのを、仁菜は感じていた。
全速力で、最上段を目指す。
「……そうだ、颯ーっ!」
二人の頭上で、仁菜は石から伝説の剣を呼び出した。
エルミナが守っていた、あの剣だ。
カフカが気づいて、こちらをにらむ。
けれど仁菜は恐れず、その剣をカフカの胸にめがけて投げつけた。
「ちっ!」
もうすぐで颯にとどめを刺せるはずだったカフカは大きく舌打ちし、その場から離れる。
伝説の剣は、颯の目前の床に突き刺さった。
「……サンキュー、ニーナ!」
颯が笑うと、不安や恐怖が消えていく。
仁菜はうなずいて返すと、もう振り返らなかった。
(行くんだ。進むんだ。
恐れずに、前へと)