ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・魔王、現る
風が吹き込んでくる。
土のにおいが、強くなる。
それを胸いっぱいに吸い込んで、仁菜はとうとう最後の一段を昇り切る。
階下ではカフカと颯の戦う物音がしているけど、颯を信じて進むと決めた。
(ここが、城中庭園……)
一歩足を踏み出せば、土の感触がした。
広がる庭には草が芝生のように生い茂り、その真ん中に、木が一本立っていた。
「あった……!」
まるでクリスタルの彫像のような、巨大な透明の木は、陽光を反射して七色に光る。
枝も葉も、繊細な細工のようだ。
そしてその最上部に、赤くきらめくものを、見上げた仁菜は発見した。
「あれが実……っぽいよね?」
意外に高いところにある。
「登るしかない……か」
仁菜はすたすたと風の樹に近づく。
その根元まで行くと、突然その陰からぴょこんと何かが飛び出した。
「わあ!」
仁菜は驚いて、後ずさる。
しかし、飛び出してきたのは……。
「あ、あなた、だれ?」
黒い猫の着ぐるみを着た、3歳くらいの幼児だった。
(か、可愛いんだけど!)
紙オムツのCMに出てきそうなその幼児は、灰色の目に涙をためて、短い両手をいっぱいにのばし、こちらを見上げた。
「お願い、樹の実を奪わないで」