ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「え……?」
仁菜は警戒も忘れ、ただ首をかしげる。
灰色の目ということはこの子も魔族だろう。
よく見れば着ぐるみなのは体と顔だけで、耳としっぽは本物のようで、ぴくぴく動いている。
ルカやロカと同じで、男か女かよくわからない。
「えっと……どうして?」
一応聞いてみると、幼児は仁菜を見上げたまま言った。
「この樹の実を取るとね、ぼくが死んじゃうの」
「え……ええっ?」
仁菜は耳を疑う。
なんで樹の実を取ると、この男の子が死んでしまうんだろう?
疑問に思っていると、その男の子(ぼくって言ったから、たぶん男だと仁菜は推測)はさらに信じられないことを言う。
「あのね、ぼく、魔王なの」
まおう。
マオウ?
仁菜のなかでその単語が「魔王」という漢字に結びつくのに、少し時間がかかった。
「ま、魔王なのっ?きみがっ?」
声が裏返ってしまう。
まさか冗談だろうと思っていると、男の子はこくりとうなずいた。
(いやあああ、反則じゃない!
こんな可愛い子が、ラスボスなんてえぇぇぇ~!)
どうしようと思っていると、魔王はぽつりぽつりと仁菜に話しかける。