ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「こんな戦い、悲しすぎます!
私たちの願いが叶ったって、その影で犠牲になって泣く人がいるなんて……」
戦ってカフカが傷つけば、魔王が悲しむ。
風の樹の実を奪えば魔王が力尽きれば、カフカは失意のどん底だ。
しかしシリウスは、拳銃を構えたまま下ろさない。
「そんなの当たり前のことだろう!
誰もが大切なものを守るために、他の誰かを傷つけているんだ。
恨みを買う覚悟くらい、とっくにできている!」
シリウスの指が、引き金を引こうとした、そのとき。
「シリウス」
ラスの手が、シリウスの銃口を包み込んだ。
「ラス様……」
「もういいよ。
俺のために、お前がそこまでの覚悟を背負う必要はないよ」
ラスはまっすぐな視線で、シリウスを見つめる。
「武器を下げて」
ラスにそう言われれば、シリウスはそうするしかない。
ゆっくりと銃が下ろされると、魔王が泣き止んだ。
超音波から解放され、仁菜はホッと息をつく。
すると隣の颯が、剣を拾わないまま、魔王の方にゆっくりと歩きはじめた。
「なぁチビ魔王……ごめんな」
颯は眉を下げ、謝りながら敵に近づいていく。
魔王は曇りのない瞳で、じっと颯を見つめていた。