ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「ごめんな。
そいつの手と髪をやったのは、俺だ」
「おにいちゃんが……?」
「ごめん。
俺も、大事な人を守るために、必死だったんだ。
でも、いいわけにはならねえよな。
本当にごめん」
颯は何度もごめんと謝り、魔王に頭を下げた。
(大事な人って、あたし……だよね?)
仁菜は胸がしめつけられるような思いがした。
自分のせいで、颯が誰かの大事な人を傷つけてしまった。
颯はそのことを、ずっと忘れずに抱え続けていくだろう。
誰かを守るということは、そういうことなんだ。
仁菜は初めて理解した気がした。
守られる方も、その痛みを一緒に抱えていかなければならないのだと。
「……このまま帰ってくれるなら、許してあげる」
魔王がぽつりと言うと、カフカが顔をしかめた。
彼にしてみれば、颯は八つ裂きにしたいくらい憎い敵なのだけど、魔王の手前、その怒りを抑えているように見えた。
「そっか……ありがとな。
お前、優しいんだな」
颯が微笑み、くしゃくしゃと魔王の頭をなでる。
カフカは目を見開いて鬼のような顔をしたが、魔王はぼーっと呆気にとられていた。
そのあと、ふにゃりと笑った。
「俺たちは風の樹の実をあきらめる。
それでいいよな、ラス」
颯が振り向くと、ラスは静かにうなずく。
そして、自分も武器をシリウスにあずけ、魔王に近寄った。
「ごめんね。
俺たちが、自分勝手だった。
怖い思いをさせたね」
そっとさしだした白い手を、魔王はおそるおそる着ぐるみの手でにぎった。