ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・wild flower
……魔王と会ってから、3日後のこと。
仁菜の胸は、旅のどの時点よりもドキドキと高鳴っていた。
ラスにむりやり着飾らされたエンパイアドレスは、薄いブルー。
手首や耳にも重いアクセサリーをつけられ、メイクもされた。
『そのままでも可愛いんだけどね、一応大勢の前に立つわけだから』
ラスはそう言って苦笑していた。
颯に至っては、「宝塚みてぇ!」と爆笑。
(ラスはいいよね!
すっぴんでも派手で可愛いんだもんね!)
両隣に立つラスと颯は、ランドミルの城のバルコニーから、城下にもっさり集まった国民ににこやかに手を振っている。
(自分だって、ゲームキャラのコスプレじゃん)
まるで絵本の中の王子様のようなキラキラの衣装を着た颯を、仁菜は呆れて見つめた。
つらい旅を乗り越え、仲間に大切なことをたくさん学んだ。
確実に仁菜の中では何かが変わった気がする。
その証拠に、もう「死んでやろうかな」などとは、少しも思わなくなっていた。
だけど、本来のビビリな性格は、なかなか変わらないみたい。
仁菜は颯に背中を押され、手の中の『神の涙』をおとさないように気をつけながら、前へ出る。
そして、城下の人たちに必死で作り笑いをして、ぎこちなく手をふった。