ヤンキー君と異世界に行く。【完】
一歩前へ進み出た仁菜の隣に、誰かが寄り添った。
「颯……」
「大丈夫。お前ならできるよ」
颯はにこりと笑い、神の涙を持つ仁菜の手に、自分の手を添えた。
ただそれだけで、仁菜の不安は薄らぐ。
「手、離さないでね、颯」
見上げると、颯はうなずいた。
仁菜は、目を閉じる。
手の中の鼈甲色の宝石に、意識を集中させる。
(お願い、この世界に、もう一度緑を……。
大地を、蘇らせて……)
祈ると、手の中の宝石が光りだす。
仁菜の指の間から、金色の光が漏れた。
その瞬間、不思議な感覚が仁菜に押し寄せる。
まるで、黄金色の蜂蜜の中にいるような。
とろりとした温かい何かが、仁菜を包んだ。
(試されている)
本能でそう感じた仁菜は、目を閉じたままじっとしていた。
神の涙は、本当に自分が所持者にふさわしいか、確かめているのだろう。
カフカやシリウスは懸念していたけど、この宝石は邪悪な心を持つ者は、ここで排除するのではないだろうか。
清浄な光に包まれ、仁菜はそう思う。
すると、途端に不安になってしまった。
(あたしだって、全然大した人間じゃないのに……)