ヤンキー君と異世界に行く。【完】
いつもバカなことを言っているけれど、それにツッコむのも実は楽しくて。
強引に手を引いたりするけれど、妙にドキドキして。
彼が自分のために傷を負ったときは、こちらの胸がはりさけそうになった。
無理やりにキスしたのはビックリしたけど、自分のことを想っていてくれたからだと思えば、それさえ愛しい。
(颯……)
せっかく元の世界に戻れたのに、自分のために、危険な異世界に迷いもなく飛び込んできてくれた。
好きだと言ってくれた。
迷ったときはいつだって、自信満々に背中を押してくれた。
(お願いします。
大好きな人たちのために、役に立ちたいんです)
自分に希望をともしてくれた仲間たちに、少しでも何かを返したい。
『……人間たちは愚かだ。
何百年もかけて破壊したものは、すぐに元通りにはならぬ』
突然手元から声が聞こえて、仁菜は思わず目を開けた。
しかしそこには当然だれもおらず、神の涙を持った自分の手と、重なった颯の手しかない。
(神の涙……あなた、なのね)
心で語りかけると、宝石はひときわまぶしい光を放つ。
『私の力ですべてを元通りにするのは不可能だ』
仁菜は魔界の森を思い出す。
彼らは、何万年という歳月をかけて、あの森を維持してきたのだと言った。