ヤンキー君と異世界に行く。【完】
(はあ……急に現実的)
仁菜が思わずため息をつくと、白ジャージの颯がそっと隣に寄り添う。
「なんだ、嫌なのか?」
真面目な顔で聞かれると、仁菜は言葉につまる。
「嫌じゃ、ないけど……」
不安材料はいくつもある。
元の世界に戻ったら、ここであったことを隠しつつ、どんな言い訳をすれば通用するんだろうかとか。
学校での視線が冷たいだろうな、とか。
「……おばさんのことか?」
「え……」
「俺、あっちでおばさんに会った。
おばさん、お前のこと心配して、血眼になって探してるよ。
おやじさんも」
颯にそっと手をにぎられると、胸の奥をギュッとつかまれたような気がした。
(颯は、わかってたんだね)
自分が自暴自棄になったのが、本当は母親に見捨てられたという孤独感からだったのだと。
ウソをつかない颯の言葉を頭の中で繰り返して、仁菜はだんだんとあたたかい気持ちになっていった。
「そっか……」
「うん。謝りたいって。抱きしめたいって言ってた」
「…………」
じわりと、涙がにじむ。
「……あたし、帰っていいんだね……」
見上げると、颯が一片の曇りもない瞳で、微笑む。
「当たり前だろ」