ヤンキー君と異世界に行く。【完】
ぽろりと、涙が一粒落ちた。
その瞬間、颯が仁菜を抱き寄せる。
余計なことを言わない颯が愛しくて、仁菜は白いジャージをギュッとつかんで、少し泣いた。
ああ、あたしは決してひとりじゃない。
ずっと、ひとりじゃなかったんだ、と。
「そういえば……ずっと聞きたかったんだけど」
「なんだ?」
颯がふと腕をゆるめ、顔をのぞきこんでくる。
「颯はどうして、ヤンキーになっちゃったの?」
ストレートに質問をぶつけると、颯は「うっ」とうなった。
「えと……それは……だな」
「それは?」
「お、お、お前が、私立の中学受けるって風の噂で聞いてだな。
勝手に失恋した気分になって、ぐれた」
颯の目が、思い切り宙を泳いだ。
「嘘だ!何か隠してる!」
「嘘じゃねえって!」
「へー、あたしに嘘つくんだ」
「お前だって、ラスにキスされただろ。
あれ忘れてやるから、今はそういうことにしといてくれっ!」
ぱん、と顔の前で手を合わせる颯。
「もう……」
颯が必死になるときは、きっと自分のため。
「いつか、話してくれる?」
「……おお、たぶん……」
颯は居心地悪そうに、頭をがしがしとかいた。
仁菜はそれを見て、笑ってしまった。
颯が話してくれるまで待とう。
そう思った。