ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「……ああ、でも、これで堂々とお前といちゃこけるのも終わりだな」
颯が急に寂しそうに言うので、仁菜は首をかしげた。
「どうして?帰ったら、堂々とできないの?」
「いや……俺、おばさんに超嫌われてるからさ。
それはもう、ゴキブリみたいに」
そうかもしれない。
仁菜は妙に納得する。
母は昔から、颯が気に食わないようだったから。
「総長も、高校卒業するまではやめられなさそうだし。
っていうかチームのやつらを見捨てるわけにはいかないから、やめるつもりないし」
それはつまり、帰っても颯はダサヤンキーのままということ。
仁菜は少しだけがっかりした。
もしかしたらヤンキーの世界から足を洗って、こぎれいな颯になってくれるかもと期待していたから。
「そしたらお前、ヤンキーの彼女だって後ろ指さされるんだよ」
「……そうかも……」
「お前に嫌な思いはさせたくない。
けど、もう離せないから」
また急に抱き寄せられて、仁菜の心臓がどきんと跳ねる。
「ごめんな……こんな俺だけど、こそこそとしか会えないかもしれないけど、誰よりお前のことを全開バリバリで愛してるから」
……なんか、聞いたことあるようなセリフ。
ああ、あれはたしか精霊の谷の泉で……。