ヤンキー君と異世界に行く。【完】
どうやって息をしていいのかもわからなくて、ドンドンと颯の胸をたたくと、やっと離れてくれた。
でも、すぐにまた触れられそうな距離で、すごく不満そうな顔をしている。
「ああああの、ダメ!」
「ああ?なんで?」
「だってここ、ラスの部屋だし!」
忘れていたけれど、ここはラスの部屋であって、仁菜たちはそこを貸してもらっているだけ。
たぶん鍵もかけてなかったと思うし、いきなり誰かが来たりしたら……。
「……いいじゃん、そんなん」
「よくないよぅ!」
仁菜の困りはてた顔を見ると、颯はしぶしぶ、起き上がった。
そしてソファの端っこに座って、うなだれる。
「……あの、颯?」
「話しかけるな。俺は今、傷心中だ」
どうやら、拒否されていじけてしまったらしい。
そりゃあ、元の世界に帰れば、母親の目もあるし、颯の家はいつも誰かいるし、どちらかの自宅でいちゃいちゃなんてもってのほかだ。
でもお金もないし、密室で二人きりになれることなんて、この先いつになるかわからない。
颯としてはここが最後のチャンスのように思えたのかもしれない。
(でもあたしは、もっと彼氏彼女らしくなってからじゃないと……)
それに、できれば、母に自分たちの交際を認めてほしい。
うしろめたいことは、したくない。