ヤンキー君と異世界に行く。【完】
わざと聞こえるように言っている。
すごいと言うわりには、そこに好意は感じられなかった。
「いない間のことは覚えてないんだって」
「記憶喪失ってやつ?」
「本当かな」
「言えないようなことしてたんじゃないの?」
くすくすと笑い声がする。
……別に、何を言われても構わないと、仁菜は思っていた。
本当のことを言ったところで、頭のおかしい人扱いされるだけなのは目に見えているし、実際後ろめたいことなど何もないのだから。
「由紀、帰ろう」
怖さでふるふると震える友人を誘い、教室から出ようとする。
「言えないようなことってなによ!」
「そりゃあ……ねえ。
男の人のところにいたとかさ。
水沢さんって、工業の男の子と遊んでるらしいよ?」
女子たちはちらちらと仁菜の方を見ながら、笑う。
ふう、と仁菜はため息をついた。
異世界から帰ってきたときから、何かと噂の的にされてきたから、これくらいのことは慣れている。
学校に復帰すると、同じようにぼっちだった由紀が友達になってくれた。
それでじゅうぶん。
無理に好かれようなどとは思わない。
それに、中途半端に偏差値の高いこの学校の女子はプライドも高くて、工業の男と付き合うのは負け組だと、決めつけている。