ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「と、いうわけで」
仁菜たちは、先ほどの部屋に戻ってきた。
帰りは安全運転でお願いしますと颯に頼むと、彼は文句を言いながらも、ゆっくり移動してくれた。
仁菜がつけた鼻水は、すでに刺繍の上でカピカピになっていた。
「塔の予言に従って、私たちは魔界へ向かって旅に出ようと思う」
シリウスが淡々と話し、異世界の住人たちがうなずく。
「まず、颯。
お前、何か武器は持っているか?」
あるわけないじゃん。
チームの集会場所には、金属バットとか鉄パイプがあるかもしれないけど。
そう思う仁菜の横で、なぜか颯はふんぞりかえっていた。
「おうよ、これが俺様の相棒だ!」
彼が特攻服のポケットから誇らしげに出したものは……。
親指以外の4本の指を入れるリングがついている、銀色のナックル。
別名メリケンサック。
はめて殴れば、自分の指の骨や間接が保護され、相手に与えるダメージは大きくなる。
「……それ、職務質問で所持してるのがバレると、軽犯罪法で捕まるよ……」
「なに!?聞いたことねえぞ!?」
「今どきナックル持ってる人なんて、そうそういないからじゃない?」
「だって、ナイフは危ないだろ!?
ヘタしたら、相手が死んじまうじゃねえか!!」
うん、だからね、ヤンキーはいちいちそんなこと考えないもんじゃないの?
でも言ってることは間違ってはないので、仁菜はあいまいにうなずいておいた。