ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「……使っていないだろう。
血のくもりがない」
アレクにびしっと突っ込まれ、颯は「うっ」とうなる。
たしかに颯のナックルは、ぴっかぴか。
歯の隙間の歯垢まで映りそう。
「さすが軍人……やっぱりアレクさん、素敵……」
大人の魅力に気づき、キュンする仁菜の横で、颯は必死の反論。
「だって、こんなんつけて殴ったら、相手の骨折れちまうだろ。
ヘタしたら……」
「死んじゃうよね」
横入りしたラスは、興味なさそうにナックルを見ている。
「それ以前に、痛いだろ!血が出るだろ!
喧嘩は素手で十分だ!」
「じゃあそれ、なんで持ってるの?」
「シブイから。あと、威嚇用」
「…………」
異世界の住人たちは、ため息をついて肩を落とした。
「あのねえハヤテ、人間相手にはそれでいいよ。
ほぼ素手で、いいんだけど」
ラスの呆れ顔に、さすがの颯も少しシュンとしてきた。
「魔族相手に素手は、そうとうキツイですよ。
その奇妙な打撃用武器を使ってもね」
「とすると衛兵隊から、予備の武器を貸し出しするしかないか」
アレクが立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
たぶん、武器を取りにいくんだろう。
そんなアレクの広い背中に、シリウスの制止がかかる。
「いや……予備では、魔界での戦いに耐えられないだろう。
それに、ニーナ殿にも武器か盾がいる」
「……では、どうしろと……?
異世界の人間は、『石』も持っていないんだろ?
ウラシマがそうだった」