ヤンキー君と異世界に行く。【完】
『石』?
胆石とか尿血石とか、そういうの?
仁菜はまたまた現れた専門用語に疑問を持った。
だけど今言われてもたぶん、覚えきれないので、聞き流すことに。
「……勇者には、それなりのふさわしい武器が必要だ」
シリウスの酷薄そうな唇が、にやりと弧を描く。
「精霊族の谷の泉にある、伝説の剣を奪いに行こう」
その言葉に眼帯をしていない方の目を見開いたのは、アレク。
「…………!?」
「シリウス、本気ですか!?」
カミーユが責めるような口調で、シリウスに詰め寄る。
「本気だ。
そもそもあの剣は、我らが王の先祖の剣だ。
奪うという言い方が悪かったな。取り戻しにいこう」
「そんな……!」
きっぱりとした口調には、反論を許さない圧力があった。
カミーユも、どう言葉を続けていいのかわからないようで、黙ってしまう。
「……ラス様、いかがでしょう」
「俺はシリウスが良いって思うなら、それに間違いはないと思う」
ラスの迷いのない口調に、カミーユは「そうですか」とうなずく。
「アレク……異論は?」
シリウスがそっぽを向いていたアレクに聞く。
「……俺は……いや……。
王子の御心ならば、それに従う」
そう言った彼の声は、地を這うように低かった。
(アレクさん……本当は、イヤなんじゃ?)
眉間にシワを寄せるアレクの顔を見て、仁菜は胸がざわざわと騒ぐのを感じた。
こうして一行は、まず精霊族が住む『精霊の谷』へ向かうことになったのである。