ヤンキー君と異世界に行く。【完】
3.精霊の谷
・大人の事情
ああああ、あっつい。
めちゃくちゃあっつい。
仁菜は今にも倒れそうだった。
結局あのあと一晩眠り、朝からすぐ旅に出るという強行スケジュールを突きつけられた仁菜。
カーディガンはとっくに脱ぎ捨ててきたけど、長袖ブラウスの制服は、すでに汗だく。
カミーユに『絶対とれない日焼け止め』というのを塗ってもらったから、日焼けの心配はないけど。
進化した科学を駆使した、楽な旅路だと思っていたら、実際はそうじゃなかった。
「ま、まだですかあ?
精霊の谷……」
「一晩そこらへんに泊まって、明日には着くかな?」
「ひええ~……」
仁菜は思わずしゃがみこんだ。
目の前にあるのは、一面の砂漠。
どこまで見渡しても、砂、砂、砂。
たまに岩。
あの異世界バイクで一気にビューンと飛んでいくのだと思っていたのに、今そのバイクは後方の岩の陰に隠れている。
『精霊は人間よりよほど耳と鼻が利く。目もいい。
ここからは目立たぬよう、歩いていこう』
シリウスの指揮に従い、全員が砂と同じ色のマントを着て、砂漠を歩くことになった。
「足が痛い~」
ただでさえ慣れていなかった新しいローファーで砂を踏んで歩くのは、重労働だった。
砂に足が取られ、ちっとも進まない。
「お前、根性ねえなあ。
ほら、つかまれよ」
見かねた颯が、手を差し伸べる。
「いやニーナ、俺がおぶってあげようか?」
颯を押しながら、ラスがたずねる。