ヤンキー君と異世界に行く。【完】
一方、アレクにのしかかられるように砂に背を押し付けられた仁菜は、色々なことで心臓が破裂寸前だった。
ばさばさと気味の悪い羽音と、カラスに似た鳴き声が、頭上で聞こえる。
(っていうか!っていうか!)
アレクの体が、自分を押しつぶさないよう、そっと横に移動する。
しかし体は密着したままで、その長くてたくましい腕が肩を押さえた。
異性と密着するなんて、中学時代勉強に全てを捧げてきた仁菜には、ありえないことだった。
自分でもなぜかわからないけど、心臓がばっくんばっくんと派手な音を立てる。
「……行ったか……」
アレクがぼそりと言うと、ゆっくりと起き上がる。
気が付けば、鳥の羽音も鳴き声も、しなくなっていた。
仁菜は慌てて飛び起き、砂をはらい、スカートのすそを直す。
「シリウス、どういうこと?」
ラスがたずねる。
「あれは魔族の密偵でしょう。
すでに境界を越えて、こちらの世界の状況をうかがいに来たようです」
「……ということは、近々侵攻してくる可能性が、非常に高いというわけですね……」
カミーユが難しい顔をする。
すると、ラスは真剣な顔で、前を見つめた。
「急ごう!
さっさと剣をとってきて、魔界に行かなきゃ!」
ええ~。マジですか~。
あなたは国を守る役目があるだろうけど、あたしは関係ないのに……。
そう思っていた仁菜の肩を、大きな手が叩いた。
「日暮れはもうすぐ。
それまでに、行けるところまで行かなければ。
俺がお前を背負うから、心配するな」