ヤンキー君と異世界に行く。【完】
その低い声は、アレクのものだった。
見上げれば、赤い瞳が優しく仁菜を見つめていた。
「アレクさん……(はぁと)」
なんて大人で、大きくて、優しくて、頼りがいがあるんだろう。
この人と比べたら、クラスのガキでバカな男子なんて、ダンゴムシ以下だ。
ああ、その広い背中におぶってもらえるのね。
自分で歩かなくていいのね。
うっとりしている仁菜の後ろから、邪魔者の声が割り込む。
「いやいやいや、オッサンだけに任せられねーよ!
俺も交代してやるから!遠慮なく言えよ!」
「颯……(余計なこと言わないでよ……)」
「ああ、疲れたら代わってもらう。
気遣いありがとう」
アレクは優しげに笑うと、仁菜を背負って歩き出した。
「……アレクは怪力の持ち主だから、あれくらいなんともないよ。
俺たち、完全に負けだね……」
「くっそ、なんなんだよあの余裕!
そしてニーナのハート型の目は!?」
背後で、ラスと颯の歯噛みする音が聞こえる。
「大人の魅力ってやつですかねえ」
カミーユが苦笑混じりに言った。
「俺らに一番足りないのは、そこかも……
ねえシリウス、大人になるにはどうしたらいいの?」
「そりゃお前、アレだろ!大人になるってのはさ……」
「ハヤテ殿!余計な事を王子に教えるでない!
ラス様も……とりあえず今は黙って、行軍なさるがいい」
「「はーい……」」
2人が黙って静かになると、たちまち仁菜に睡魔が襲い掛かった。
アレクの安定感ある背中に揺られ、彼女は眠りに落ちてしまった。