ヤンキー君と異世界に行く。【完】
仁菜は飛び起き、荒く息をする。
「夢……?」
最後に聞こえた、神経質なキイキイ声は……
「お母さん……」
15年、聞きなれた声だった。
なのに、最後に何を彼女が言ったのか、もう覚えていない。
なんとなくわかるのは、たぶん彼女はいつものように怒っていたということ。
「……大丈夫か?悪い夢でも見たか?」
目を閉じて息を整えていると、低い声が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、アレクが心配そうに仁菜の顔をのぞきこんでいた。
(ちっ、近い、近い近い!)
「だ、大丈夫です」
返事をして、回りを見回す。
そこは白い壁の、何もない狭い部屋だった。
天井は丸く、他には誰もいない。
「あの、他のみんなは?」
「隣の部屋だ。
これは野宿用の携帯住居で……とにかく、女性のキミは特別にここを一人で使っていい」
仁菜は驚く。
どう見ても、普通のアパートのようだ。
自分が寝ているのはベッドだし、小さなドアの向こうにあるのは、トイレや浴槽だろうか。
こんなものを小さくして携帯できるなんて、すごい世界だな。
そうしてぼんやりしていると、アレクが優しく頭をなでて、言う。
「俺は今見張りの当番だったんだが……
苦しそうな息が、聞こえたから」
「…………」
「大丈夫なら、食べるといい。食事だ」
アレクはゆっくり言うと、懐から何かを取り出す。
手渡されたそれは、棒状のクッキーみたいだった。
(あ、あれに似てる……!
かの有名な栄養補助食品、『カロリーメ○ト』に似てる!)