ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「…………」
ひとり部屋に取り残された仁菜。
壁の向こうからは、人の声がした。
たぶん、ラスや颯だろう。
「いいなあ、男の子は……」
あんながさつな生き物になりたいわけじゃないけれど。
急にさみしくなって、仁菜はドアの外を見つめる。
そしてそっと、ベッドから抜け出した。
音を立てないよう、ゆっくりとドアを開ける。
すると、アレクが何歩か前にぽつんと一人で座っているのが見えた。
見上げれば、満天の星空。
(すごい……お星様、降ってきそう)
環境が汚染され、女の子が生まれなくなってしまった国と同じ大陸だとは思えなかった。
しばらくぽかんと見つめたあと、アレクに視線を戻す。
彼は相変わらず、あぐらをかいていた。
「…………」
声をかけようとして、戸惑う。
アレクは、ふと星を見上げたかと思うと……。
次の瞬間には背を丸め、片手で頭を抱えるようにしていた。
まるで、大きい体を自分で小さくするように。
まるで、世界から自分を隠すように。
(……なんか、ヘンだ……)
そういえば、精霊の谷に向かうと決まったとき、アレクは唯一、動揺したような表情を見せていた。
(精霊の谷に、なにかあるのかな……)
仁菜はついに声をかけられず、ドアを閉めた。
ひとりでベッドにもぐりこむけど、さっきまで寝ていたせいか、なかなか眠れない。
ならばと、さっき見た夢を思い出そうとしたり、アレクの様子がおかしい理由を想像してみようとしたが、うまくいかなかった。