ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「あ、あたし、別に……アレクさんの大人の魅力にドキドキしてるわけじゃ……」
「してんじゃねーか」
「う……」
仁菜は黙ってうつむいた。
颯はひとつため息を落とし、相変わらず小さな声で話しだす。
「お前には大人すぎんだよ、あの人は。
手に負えねえっつうの」
「……そりゃ、あたしは何の経験もない子供だけど……若さも魅力のひとつだと思いますっ!」
「ケツが青いだけじゃねーか。ムリ。やめとけ」
おバカのくせに、呆れた顔で見下ろしてくる颯に対し、仁菜は頬をふくらませる。
「……あとさ、アレクの前で精霊の話、すんな」
「えっ?」
「昨夜、色々話を聞いたんだけどさ。
アレクさ、精霊族が苦手らしいんだ」
「…………」
「あまり聞かれたくないことらしいからさ、つっこむな」
何よそれ。
仁菜はますます風船みたいにふくらんだ。
(あたしがいないところで、自分だけみんなと仲良くなってさ。
男の子だからって、ずるい)
とは思ったが、たしかにアレクは精霊族が苦手……というか、関わりたくないらしい。
仁菜はあいまいにうなずいておいた。
すると颯は、ふっと笑って仁菜の頭をなでた。
「お前には、俺様くらいの普通の地球人がお似合いだって!
悪いこと言わねえから、王子とか大人とか、住む世界が違うのはやめとけ。
しんどいだけだぜ」
「……颯のどこが普通なのよ、バカヤンキー!」
仁菜はツッコミに夢中で、聞くのを忘れていた。
なぜ、アレクが精霊族を苦手としているのかを。
颯が、どんな話をみんなとしたのかを。