ヤンキー君と異世界に行く。【完】
太陽が地平線に沈んでいく頃、シリウスが声をあげた。
「やっとたどりついたか」
といっても、途中までは異世界バイクでぶっ飛ばしてきたから、現実には丸二日しかたっていないけれど。
江戸時代の人たちの旅が命がけだったということが、今ではよくわかる。
仁菜はシリウスとラスが立っている地点まで、筋肉痛に耐えながら、なんとかたどり着いた。
そこにあったのは……
「うわ……」
まるで地が裂けたように、いきなり崖になっていたその間に、小さな緑の森が見えた。
「……植物、あるじゃないですか……」
「あの谷の植物は、あの谷にしか根付かない植物たちだ。
湧き水を利用して、彼らはあの谷を維持している」
シリウスは言った。
「さて、ここからは落ちないように、下るだけですね」
カミーユがのんびり言うが……。
「ちょ、ちょっと待ってください。
かなり高さがあるし、急だし、どうやって……」
慌てる仁菜に、カミーユは優しく笑う。
「ごく原始的な方法しか、ないでしょうね。
精霊に見つかると厄介ですから」
そう言って、取り出したのは……
「……つ、釣り糸?」
「残念ですが、海は世界のずーっと果てなので、ここでは釣りはできませんねえ」
「……って、まさか……」
仁菜はぞくりと震えた。
カミーユは手ごろな岩をみつけると、それに糸をくるくる巻きつけた。
そして……。