ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「イヤああああ!!」
仁菜は人生初の逆ロッククライミングに挑戦していた。
カミーユはあのあと、全員の体に糸を巻いてつなぎ、それを頼りに崖を降りだした。
仁菜は一番力のあるアレクと一緒に縛られ、彼に支えられながら……
というか、ほとんど抱えられているだけだった。
「大きな声を出さないでくれ。
精霊たちに気づかれる」
「うっ……ううっ……」
そんなこと言われたってあたし、おさるじゃないし。
仁菜は糸を頼りにさっさと降りていくラスや颯を見て、泣きながらそう思った。
颯は昔から野生児だったけど、意外にラスも身軽なようだ。
その横には、しっかりシリウスがついている。
先頭をきったカミーユが着地したとき、日はすっかり沈んでいた。
「暗いですね……どうします、シリウス」
「急いだ方がいい。
こんなところで寝たら、朝には命がなくなっているだろう」
「ですよねえ」
……今命があるほうが、奇跡だと思うんだけど。
仁菜は着地したあともひざの震えがおさまらず、アレクにくっついたままだった。
しかしいつもは仁菜に気を遣ってくれるアレクが、今は無言。
その赤い目は、谷の間にうっそうと茂る森を見つめていた。
「アレク……泉は、向こうだったか?」
「ああ、そうだ」
「ふむ。では、いそごう」
シリウスの号令で、一行はなるべく音を立てないよう、こそこそと移動しはじめた。
そのマントの色は、今は森の木々と同じ色に変色していた。