ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「どれくらいかかる?」
「……日の出の直前くらいか」
「けっこう遠いなあ」
シリウス、アレク、ラスがひそひそと言葉を交わす。
仁菜はカミーユと颯に手をとられ、森の中で転ばないように、なんとかついて行っていた。
そんなとき……。
「…………!!」
がさりと落ち葉を踏む音がして、シリウスが立ち止まる。
そのすぐ後ろをついていたラスが、背中に鼻をぶつけた。
(え……っ、えええっ!!)
どうしたんだろうとか、思っている暇はなかった。
アレクとシリウスが、ラスの両側に立つ。
仁菜は颯とカミーユの背後に回され、5人が作る円陣の中央に入れられた。
「精霊族……!」
ラスが言うが早いか、彼らの鼻先に、弓矢や槍の先が、いっせいに突きつけられた。
それを構えているのは、金髪にとがった耳を持つ、美しい生き物たちだった。
体つきは人間と同じ作りをしているようだが、全体的に細くて長い。
足音もさせない彼らに、仁菜たちはいつの間にか、包囲されていた。
「手を上げろ。無駄な抵抗はよせ」
弓矢や槍の向こうから声がして、仲間たちは両手をあげる。
(ちょ、待ってよ!さっそく捕まっちゃったじゃん!
っていうか、この人たち、怖いよ……なんで足音しないの?
地上から2mmくらい浮いてるの?)
仁菜も同じように手を上げ、自分たちを取り囲む鋭い先端を、涙混じりに見つめた。
「この谷に何の用だ、人間ども」
弓や槍を構えた精霊たちの後ろから、凛とした声が響く。
やがてその主は、仁菜たちの前に現れた。