ヤンキー君と異世界に行く。【完】


「どれくらいかかる?」


「……日の出の直前くらいか」


「けっこう遠いなあ」


シリウス、アレク、ラスがひそひそと言葉を交わす。


仁菜はカミーユと颯に手をとられ、森の中で転ばないように、なんとかついて行っていた。


そんなとき……。


「…………!!」


がさりと落ち葉を踏む音がして、シリウスが立ち止まる。

そのすぐ後ろをついていたラスが、背中に鼻をぶつけた。


(え……っ、えええっ!!)


どうしたんだろうとか、思っている暇はなかった。


アレクとシリウスが、ラスの両側に立つ。

仁菜は颯とカミーユの背後に回され、5人が作る円陣の中央に入れられた。


「精霊族……!」


ラスが言うが早いか、彼らの鼻先に、弓矢や槍の先が、いっせいに突きつけられた。
それを構えているのは、金髪にとがった耳を持つ、美しい生き物たちだった。

体つきは人間と同じ作りをしているようだが、全体的に細くて長い。

足音もさせない彼らに、仁菜たちはいつの間にか、包囲されていた。


「手を上げろ。無駄な抵抗はよせ」


弓矢や槍の向こうから声がして、仲間たちは両手をあげる。


(ちょ、待ってよ!さっそく捕まっちゃったじゃん!

っていうか、この人たち、怖いよ……なんで足音しないの?
地上から2mmくらい浮いてるの?)


仁菜も同じように手を上げ、自分たちを取り囲む鋭い先端を、涙混じりに見つめた。


「この谷に何の用だ、人間ども」


弓や槍を構えた精霊たちの後ろから、凛とした声が響く。

やがてその主は、仁菜たちの前に現れた。


< 68 / 429 >

この作品をシェア

pagetop