ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・アレクの過去
それは、アレクが仁菜と同じくらいの歳の頃。
いまより、8年ほど前のことだった。
不老不死の体を持つ精霊族にとっては、まだ昨日のことのようだろう。
「俺は、武術の腕を王に見込まれ、この谷に派遣された。
今の俺たちと同じく、泉に眠る伝説の剣を取りに行くためだ」
アレクの言葉を、ラスが継ぐ。
「俺の300年くらい前のご先祖様と当時の精霊族の王様が、戦争してたときがあったんだ。
勝負がなかなかつかなくて、結局不可侵条約を結ぶことで、事はおさまった。
そのとき、ご先祖様が精霊族に剣を贈ったんだ。
『これを泉に沈めてください。
今後決して、人間があなた方を攻撃することのないように』
って意味でね。だよね?」
ラスの言うことに間違いはないようで、シリウスは満足気にうなずいた。
「ただ、ランドミルが衰退しつつある今、国は各方面から狙われる可能性が出てきた。
境界の川がある限り、魔族は来られない。
だが、大陸の端にはたくさんの民族がいる。
現在の王は、いずれ起こる戦争をおそれ、その古き偉大な剣を、取り戻そうとなさった」
人間は、他の贈り物を用意した。
科学を駆使して作った、本物の宝石より美しい結晶や、丈夫な金属や衣類。
しかし精霊族は、そんなものはいらないと言った。
人の手で作ったものより、自然のものを愛する精霊族は、この大陸を汚し続けた人間を、憎んでいたから。