ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「……精霊族は、俺を殺しはしなかった。
ご丁寧にランドミルまで送り届け、王に全てを報告してくれた。
こうなりたくなければ、二度と精霊の谷には近づくな、と……」
アレクは自分の眼帯を外す。
そこにある左目はまぶたが閉じられ、その上を一本の深い傷跡がえぐっていた。
「……なぜ、お前が泣く?」
「え……?」
仁菜は一瞬、アレクがなぜ自分を見ているのかわからなかった。
気づけば、涙が頬をつたっていた。
(そんなことがあったなんて……)
胸が痛くて、はりさけそうだ。
(颯が精霊族の話をしない方が良いって言ったのは、こういうことだったんだ……)
「……俺なんかのために、泣かなくていい」
アレクは笑うと立ち上がり、仁菜の頭をなでた。
「それで、エルミナさんは……」
「…………」
たずねると、アレクは黙って首を横に振った。
「……死んだよ。」
「え……っ」
「不老不死の精霊族は、加齢では死ねない。
彼女は、俺に裏切られた……俺が剣を得るために自分を愛するふりをしていたのだと思いこみ、自ら命を絶ったそうだ。
あの、泉の中で」
「そんな……!」
「精霊族って、性格悪いんだよ!
それをわざわざ、瀕死だったアレクに伝えて、追い討ちかけやがって!」
重たい雰囲気の中、ラスの抗議が牢屋じゅうに響いた。