ヤンキー君と異世界に行く。【完】
・魔族現る
仁菜たちはツタでできたロープで手を縛られ、腰をつながれ、移動させられた。
そこは、精霊族の木のおうち……じゃなくて、木の城。
通された大広間の床はつるつるした石で、壁や柱は、まるで彫刻のように見えるが、木の枝が自然のまま絡み合っているようだった。
その奥にいたのは、金髪の中年と見られる男。
「セードリク王、人間たちを連れてきました」
「うむ。ご苦労」
金髪のおじさんはうなずき、仁菜たちをにらみつけた。
(このひと、王ってことは……エルミナさんのお父さんだ。
アレクさんに、ひどいことをした人……)
仁菜は負けずににらみかえした。
セードリク王の背後にも、広間の入り口にも、何人もの精霊族がいる。
「……よく再びこの地を踏もうと思ったな、人間ども。
それほどあの剣が欲しいのか」
セードリク王は、ラスにたずねる。
「うん。お願いおじさん、俺にあの剣をちょうだい?
俺ね、あれ持って帰らないと、おとーさんとおかーさんに叱られちゃうんだ……」
ラスは小鹿のような黒目がちな瞳でセードリク王を見上げ、小首をかしげる。
(か、可愛さで丸くおさめようとしてる……!
自分が可愛いこと、すごくわかってる……!)
仁菜はラスの鋼鉄のような心臓に関心しながら、少しうらやましく思う。
自分がラスにこんなふうにお願いされたら、断る自信がない。