ヤンキー君と異世界に行く。【完】
「と、いうわけだ。それらは全て、王に差し上げよう。
代わりに、あの剣をゆずってくれ」
シリウスがクールな表情で言う。
(ちょ……みんなアレ見て、なんとも思わないわけ!?)
仁菜は一人で悶絶していた。
「……代わりに、か……いや、やはり過去を水に流すことはできぬ。
その男のせいで、私の大事な娘が、失われたのだから」
王はアメを部下の男に渡し、アレクをにらみつけた。
アレクの肩が、かすかに震える。
「忘れはせぬぞ……人間」
「…………」
「……剣を私たちが泉から取り出すことはできない。
あの泉は、エルミナの呪いで穢れてしまった。
彼女が、眠りを乱す全てのものを飲み込んでしまう」
一転して、空気はシリアスモード。
仁菜はちゃんと座りなおした。
「……ってことは、おじさんに頼むだけ無駄ってこと?
なんだよそれ、ハヤテの武器までもらっといてさ。
さんざん偉そうにしといて、剣とりだせないんじゃん」
ラスがぶーぶー言うと、シリウスがそれをなだめる。
「では、泉を調査する許可を、僕たちにください。
もし剣が取り出せたら、僕たちのものということで」
カミーユがいつもにはない強引さで、王に詰め寄る。
口調だけは優しいが、目は笑っていなかった。
「……ならぬ。もう、あの泉には近づくな。
娘をそっとしておいてやってくれ……」
セードリク王が、ぽつりと言った。
仁菜は思わず、王の顔を見上げる。
それは、娘を思う、ただの父親の顔だった。