フローズン・パール


「・・・ねえ」

 もう一度呼びかける。

 まだ反応しない。聞こえてないのだろうか?私の声が小さかったのかもしれない。それとも面白い記事を読んでいて、邪魔をされたくないとか?

「ねえ!」

 声を大きくしてみた。彼は、まだ振り返らない。

 私は声を小さく戻した。

「ここにいるのよ」

 反応なし。さっきの声で聞こえてないなら、今のは絶対に聞こえてないはずよね。

「私は、あなたの何なのかしらね」

 もう届かなくなってしまったのだ。私の声は。


その前日、スーパーで一人で買い物をしていて、レジの後ろに並んだ新婚カップルらしき人たちの会話。

 それを聞いていて、ぼんやりと、いいなあ~、と思ったのだ。それに気付いてハッとした。

 私、惚れた男と住んでるよね?って。

 なのに、最近、こんな会話したっけ? そう思った。よく考えたら・・・・。

 最後に抱き合ったのは、いつだったっけ。

 居ても立ってもいられなくなって、逃げるようにスーパーを出てきたのだ。

 あら?あらら?

 おかしいな、いつから私達、手を繋がなくなった?というか、私、彼と一緒にいたいと思ったっけ?休みの今日、買い物に一緒に行こうって誘ったっけ?

 部屋まで走って帰って、ちょっと呆然としたのだ。


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