フローズン・パール
私は小さくため息をついて、彼の元へとぺたぺたと歩く。
そして肩をトントンと叩いた。
「・・・ねえ、さっきから話してるんだけど?」
彼はやっと振り返った。
ずり下がってきたメガネを右手の指でなおしながら、え?と突っ立つ私を見上げる。
「ごめん、聞こえなかった」
低い声で、呟くように言った。
そしてガサガサと音を立てて、新聞に向き直る。
彼の視線が離れると同時に、私は天井を見上げた。
ベランダから入ってきた光が、床のリノリウムに反射して弱い輝きを天井に投げている。それをじっと見た。
I can't follow you.(聞き取れませんでした)
私は彼の肩から手を離した。
・・・そして、Once more, please.とは続かないのね。私の話すことには、もう完全に興味がないんだね。
また部屋の隅っこまで歩いて行って、爪の手入れを再開した。剥げていたマニキュアを綺麗にとって、指先のマッサージをする。淡々と作業をした。
同じ部屋に二人の人間。
でも、一人でいるのと違いはない。
それが、今の二人の現実なのだ。