フローズン・パール


 用意するのは真っ赤なボード。それと黒い極太マジック。

 蓋を開けると、部屋の中にシンナーの匂いが広がる。私はキュッキュと音を立てて、真っ赤なボードに文字を書く。大きく大きく文字を書く。

 そしてボードに紐をつけて、首からぶら下げた。

 私の胸元で揺れる真っ赤なボードには黒くて太い文字。

『もう別れましょう』


 
 彼は、どう反応するだろうか。


 彼が帰ってくるまで起きていた。久しぶりに、「お帰り」って言ってみた。彼は無言で洗面所へ。

 ・・・ちょっとちょっと、一発目で無視しないでよ。あたしはムッとする。

 ならば。

 私は今度は居間であぐらをかいて座る。廊下をこっちに歩いてきたら、嫌でも目に着く場所に。

 ところが、彼はタオルで顔を拭きながら歩いてきた。左手にはメガネをぶら下げて。

 そしてそのまま、寝室に入っていったのだ。

 一言も喋らなかった。

 私はその真っ赤なボードを首からぶら下げたままで、居間で寝た。

 朝、彼の出勤準備の音で目が覚める。

 ぼーっとしたままでそれを目で追っていた。

 だけど彼は一度もこっちを見なかった。


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