オマケ集。
拾い上げると、我に返った琴子が手元をのぞきこんでくる。
「なんの小説?『道』?ああ、戦時中の・・・。学徒動員?」
「書いてる人は当時、生徒だったんだけどさ。
わっかいんだよなあ、先生達。
俺と同じくらいか、もっと下だったり。
もちろんずっと年上の先生もいるけどさ。
んで、8月9日が来て・・・。」
「長崎なの?」
「そ。
さすがに俺なんかが想像するにしても限界があるけど、
すげえ極限状態なのはわかるじゃん。
生きてるのが不思議なくらいの大怪我してたり、死んでたり、
全部消し飛んで何もなくなって、
じゃなきゃガレキの山で火に巻き込まれたり、
途方にくれて、
そんなの大人だろうがなんだろうがみんな同じじゃん。
だけど生徒達が
真っ先に探すのは、
呼ぶのは、
先生だろ。
「助けて先生」って、
ほんとは誰でもいいのかもしれないけど、
その場で一番何とかしてくれるってとっさに信じるのは、
やっぱ先生だろ。
んで、この先生たちはさ、
全力で生徒達を受け止めるんだよ。
食べ物を持ってるわけでもないし、
治療ができるわけでもなんでもないけど、
ほんとはどうしたら一番いいかなんてわからなかったりしてもさ、それでも、
「よくここまで頑張ったね、もう安心していいよ、さあ、後は任せなさい」って、
全力で受け止めようと、
ちゃんと応えようと、
生徒達を迎えるんだよ、この人達は。
生徒とほんの数年しか歳が違わない先生でも、
最期まで生徒達を守ってる。すっげえよ。
ただの虚勢でもさ。
ほんとは無力で無策でも、
『先生』であるだけで、そう生きられる。
命がけですよ。
命でも、かけられる。
個人なら、無理だね、俺は。」
「個人?」
「俺が俺でしかなかったら、ってこと。」
言ってから、そう言えばこの頃は「俺」であることにばっかこだわってたんだなあとか思い出す。
「・・・なんか、大人だね、亮介。」
考え込むようにして黙り込んでた琴子が、ポツリと言った。