MEMORY-君と過ごした夏-
作った笑顔
「奈央ちゃん!」
駅前に着くと、ケンジが笑顔で私に手を振っているのが見えた。
私も作った笑顔で手を振り返す。
それだけですれ違う男達は私を見る。
あーあ、めんどくさい。
「いやー、やっぱ奈央ちゃん可愛いね!
彼氏として鼻が高いよ」
「ありがとう」
アンタの彼女になった覚えはない。
覚えてないだけかもしれないけど。
「ケンジ、今日はどこ行くの?」
「んー…奈央ちゃんはどこ行きたい?」
「観たい映画があるんだよねぇー
映画館行こ?」
上目遣いでおねだりすれば、簡単に頬を赤くして頷く。
…単純。
映画館ならしゃべらなくて済むし、楽。
笑顔のままケンジと手を繋いで、歩き出した時だった。
「……ケンジ?」