MEMORY-君と過ごした夏-
いつもと同じバッグを無造作につかむと、自分の部屋を出る。
リビングに入ると、ソファに座って紅茶を飲んでいたお母さんがぎょっとしたように私の姿を見つめた。
「奈央…今日も遊びに行く気?」
「…まあ」
「ふざけないで!今日が何の日かわかってるんでしょう?!」
そんなこと言われるまでもない。
わかってるに決まってる。
私は小さく舌打ちをすると、テーブルの上に置いてあったサンドイッチに見向きもせずに玄関の扉を開けた。
後ろからお母さんの怒鳴り声が聞こえた気がする。
ほんとめんどくさい。
放っておいてくれればいいのに。
「…奈央?」
聞き慣れた声がして顔を上げると、家の前に一人の男が立っていることに気がついた。
「…優也…」
また…めんどくさいのに会った。