MEMORY-君と過ごした夏-
私に殴られた頬を呆然と押さえる優也の横を走り抜ける。
優也はもう私を止めたりしなかった。
『榎本 蒼太』
それが彼の名前だった。
彼はどうだったかわからないけど、私は『蒼太』って名前が好きだった。
綺麗だと思ったから。
蒼太、って呼ぶ度に振り向く、彼の太陽みたいな笑顔も好きだった。
茶色いふわふわの髪の毛
笑うと出来るえくぼと、見える八重歯
男にしては高めなのに落ち着いて聞こえる声
大きな手、背中
全部、大好きだった。
蒼太と一緒にいるだけで、毎日が輝いて見えた。
蒼太さえいれば、他には何もいらなかった。
それなのに。
二年前の今日、蒼太は死んだ。