星屑恋夜~【恭&綾シリーズ】3~LAST STORY
星屑恋夜
1.部屋に入らない男
午後八時。
車はウィンカーを上げ、道路の左側に寄せて停車した。
上野百合は、運転席の男の顔をじっと見つめる。
「着いたよ」
百合の視線に気付いているのか、男は真っ直ぐ前を見たまま告げた。
小さく息を吐いて、百合は今日もいつもと同じ台詞をいつもよりにこやかに口にしてみる。
「ね、まだ八時だし、私の部屋に寄って行かない? 美味しい紅茶を見つけたの」
紅茶の部分は今日のために用意した台詞だ。
この言葉を使うために、百合はわざわざ専門店に足を運び、紅茶を買ってきた。
今まではコーヒーで誘ったが「うん」とは言ってくれず、前回は「紅茶派だから、やめとく」と言われてしまっていた。
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