魔王様に召喚
結局片付けるのに小一時間かかって、ようやくできた朝食は、甘くないパンケーキ。食材が、保存食のような物しか無かったので付け合わせはない。
飲み物はちょっと怪しいお茶の葉があったので、思い切って淹れて味見をすると、ほうじ茶を少し甘くしたようなお茶になった。
「ルート、そこにおるんやろ。
これテーブルまで運んでくれる?」
「はいっ、よろこんで!」
あちらの世界を彷彿とさせるとさせるような返事をして、器用に全部を運んで行ったルートの足取りにはらはらしながら、さっと後片付けをして居間へ移動した。
ちなみに居間のテーブルは、四人掛けになっていて椅子はベンチ。
しつこいようやけど、四人掛け。
「なあ、なんで隣同士なんやろうな?」
「まあ、細かいことはいいじゃありませんか。せっかくナナミさんが作ってくれたんですから、温かいうちにたべないと!」
うきうきしているルートを尻目に、無言で向かいの席に移動するとルートもついてくる。
「あんたなぁ....」
「はい?」
にっこにこして心底嬉しい!という風にオーラを放っているルートに、すっかり毒気が抜かれてしまう。…なんやろう、これも計算なんやろうか。
「…もうええわ。」
「そうですか?じゃあお祈りして食べましょうか。」
「え」
「え」
「…お祈りってなに?」
「食事の前に、食事を食べられることへの感謝のお祈りです。ナナミさんの世界ではないんですか?」
「ああ、なるほどな。
祈る人もおるけど、私が住んでたところの一般的なやつは『いただきます』やわ。」
「『いただきます』?」
「うん。私たちの命のために動植物の命をいただきますって言う意味なんや。
自分たちの命が自然の恵みと多くの犠牲で生かされていることに対する感謝の気持ちのあらわれやから、ルートの祈りと一緒かな。あとはご飯が食べ終わったら、ご飯を作ってくれた人や食材を作ってくれたりした人、命をいいただいた食材たちへの感謝で『ごちそうさま』って言う。」
これは、日本人特有の文化やけど私は必ず言うようにしている。
最近では言う人も少なくなってきているようやけど、食べ物が食べられるのは幸せなことやと思う。
「…ナナミさんの暮らしていた世界は、とても素晴らしい文化をお持ちのようですね。
命をとても大切にしているのが伝わる言葉です。」
「まぁ、私が住んでいた国の特有やけどな。わりと気に入ってるんや。」
「僕も今日から『いただきます』を使います!」
「え、別に無理してあわせんでも…」
「いいえ!僕は『いただきます』に感動しました!!ぜひ使わせてください!!!!」
ものすごく押されてしまって、結局何も言えなくなる。
すっかり冷めてしまった朝食を、2人で仲良く『いただきます』をして『ごちそうさまでした』で無事に朝食を終えた。
部屋に戻ると、スライムたちがピラミッドになって窓の外をじっと眺めていた(目がないからわからんけど)。
なにあれカワイイ。一番下になっている子たちは重さに負けて若干潰れ気味なんもカワイイ。
うちの子サイコ―。
ちなみにスライムたちは私とリンクしとるから、私が元気でさえいれば元気なんやって。
つまりごはんとかはいらんらしい。
ひとしきり無言で悶えた後、彼らの邪魔をしないようにそっと近づくと一番上のウメが振り向いた。
「外に出たいん?」
ぺぽん!と元気よく返事してわらわらと七匹は七海を取り囲むと、催促するように周囲を回り始めた。
あ、あれ?
これってハ○ルに似たようなシーンが…
「わかったわかった。ほな散歩にいこか。」
ぺぽん!ぺぺぽん!!
わーいって感じで、スライム達は跳ねたり転がったりしながら居間へと向かう。
むこうの方で「うおおっ」とかいう驚いた声が聞こえて思わず笑ってしまった。
寝起きのままだった服を着替えて(こちらの服をルートはすでに準備していた。サイズがぴったりで気持ち悪い)、さっとベットを整える。
よし、と満足してスライム達の後を追うと、ルートがスライム達と戯れていた。
くそう、うらやましいやんか!
「ほら、お前たち行くで!」
私が声をかけたら、甘えたようにすり寄ってきたかわいい子たち。
むふふ、優越感。
「どこかお出かけですか?」
「うん。この子達が外にいきたそうやたから、散歩に行こうかと思って。」
「…ナナミさんは順応が早すぎます。もう少し僕を頼ってくれるかと思ったのに…」
「頼るって…ちょっと散歩出るくらいやし、ええ歳した大人に1から10まで教えてってすり寄られてもいややろ。」
言いながら自分でも想像してみる。
…うん、放送禁止に引っかかりそうなレベルや。
考えているうちに、困ったような表情で笑うルートがそっと頭を撫でた。
「いい歳って…まだ14、5歳でしょう?まだまだ子どもなんですから、あまり無理をするものではありませんよ?」
「…は?」
「…え?」
朝からこのやりとりが多いような気がする。
いやいやちょっと待て、いくら若く見積もってもそれはやわ。
…外国人からすると日本人はみんな若く見えるっていう、例のアレか。
「なぁ、ルート。私はこれでも26や。」
「えっ?………えええええええええええええええええええっ!!!!!」
悲鳴をに似た叫び声をあげたルートにあおが五月蠅いとでもいうように、腹部へ頭突きをくらわせてそれは苦痛の叫びになった。
スライム達はあおを称えているのか、ぺぽんぺぽんいってあおがどやぁと応えているように見えて微笑ましい。
あらいやだ。あおってば意外に喧嘩早いのかしら?
いったい誰に似たのかしらね。うふ。
「なっ…なっ…!!」
ルートはと言えば、顔を青くしたり赤くしたりしながら、言葉も出ないようだった。
思い返してみると魔王城の入り口で何のためらいもなく抱きしめたり、手をつないで走り出したり、背中の塗り薬のときの遠慮のなさも、さっきの頭を撫でるのだって子ども扱いしていたからか?
だから、びっくりするくらい警戒心というか男女間の自重みたいなんがなかったんか。
まぁ自分でいうのもなんやけど、顔は可もなく不可もなくや。
あえて大人っぽいか童顔かと分類しなければならないとしたら私は童顔の部類やろうな。加えて身長は156センチ。日本人女性の平均くらいやと思うけど、村でみた魔族を見る限りでは西洋系の体格やった。
小柄な日本人は子どもと間違えられてもおかしくないのかもしない。
その基準でいくと、ルートも私を14、5歳とおもってもしゃあないか。
なるほど、と1人で納得しているとようやく立ち直ったルートが、こちらを罰が悪そうにこちらをじっと見ていた。
「ん?別に怒ったりはしてないで?」
「あ、いえ、その、....すいません....」
自分のしてしまった、あれやこれやを思い出しているのだろう。
目もとにほんのり朱がさしている。
え
そんな、そんな反応されたら.....
「え、ええええええねん!き、きき気にせんといて‼︎あ、ああほら、そういうルートはいくつなんよ?私だけ教えてるんも嫌やから教えてよ!」
「そ、そうですね!女性に年齢を聞くなんて失礼ですよね‼︎僕はええと、何歳だったかなっ...?たぶん31?」
「...え?魔王ってもっと長生きちゃうの?」
返ってきた普通の年齢に、思わず首を傾げる。
ほら、よくラノベであるやん?
500過ぎてからは数えてないな、みたいな会話。
「僕は最近魔王になったばかりなので。」
ちょっとだけ、落ち着いた感じの声が返ってきていじっていたゆかりから目を上げてルートを見る。
ルートはさっきの困ったような笑みとは違う種類の困った笑みを浮かべていた。
「さあ、お喋りはこれくらいにしましょう。この子達も退屈していることですし。
あと、村の外には出ないでくださいね。」
「あ、うん。わかった。」
「いいですか、くれぐれも村の外にはでないように。ナナミさんが悪いわけではありませんが、人間をよく思わない魔族も当然いますから。後ろからがぶりと食べられても知らないぞ☆」
「シャレにならんことを軽く言うなよ!....
.ほんまに?」
朝のすがすがしい気分が台無しや!
やけど、人間と戦争していると言うし、がぶりされてまう可能性があるかもしれへん。
魔族なんかに襲われたら、何の力もない私なんかイチコロや。
不安になって聞き返せば、「大丈夫ですっ」っていい笑顔で親指を立てられた。
「カリムから出なければ、安全ですよ。ですからお散歩楽しんできてくださいね!」
「そんなもん、なん?......なんか腑におちんけど、まあ大丈夫なんやったら行ってくるわ。」
行ってきますと、ドアを開けて外に出ると晴れた空と清々しい空気。
心が浮き立つような、そんな気分になる快晴だった。
さっきの話、かなりきになるけど....,
チラリと足元に目をやれば、ねえ、まだ?まだなの?といった視線とかち合う。
「ま、いっか。
よーし、行くでーっ‼︎」
ぺほんっという合唱とともに、散歩にくりだした。
さて、勢いよく外に出たもののどこへ行こうか。
散歩にちょうどよさそうな場所はあるかな?
「あ、あそこ行ってみよか。」
家のちょうど反対側には雑木林を少し大きくしたような森があった。
陽の光のせいか、きらきらと輝いて見える。
うん、いいかんじ!