カラダ探し
十一日目【終】
耳が痛くなるほどの静寂、飲み込まれてしまうかのような暗闇の中、健司は階段を上がっていた。


辛いのは、今にも山岡泰蔵に乗っ取られてしまいそうな事。


肉体的には、まだ動く事ができる。


しかし、一歩、また一歩と足を前に出す度に、心が黒く染まって行くような感覚に、健司は怯えていた。


俺がやると言ったものの……本当に工業棟まで行けるのか、「赤い人」からぬいぐるみを奪う事ができるのか、それにも不安がある。


「健司、任せたからな」


階段を上り切った所で、そう声をかけたのは高広だった。


「赤い人」からぬいぐるみを奪い、工業棟へと続く廊下と、南北を貫く生産棟の廊下の交差点、そこで待つ翔太に渡す。


そこまでが健司の役目。


「頑張る……俺だって……早く終わらせたい」


制服の袖で汗を拭い、そう答えて高広と別れた。


健司にはもう、走る力は残っていなかった。


だが、ひとつだけ残された可能性に賭けようと考えていたのだ。


高広は大職員室の前の廊下と、西棟が交わる廊下で翔太を待って、後ろにいる理恵と留美子にぬいぐるみを渡して、「赤い人」を食い止める。


一瞬で殺されるかもしれないけれど、余裕があればぬいぐるみから頭を出す事も兼ねていた。


少し距離を置いて、健司の背後を歩く翔太が立てた作戦。
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