Blood Tear


 「別に俺はいいけどさ、彼奴の事、忘れてないか?」


 「彼奴………?あっ……!クレア……」


 「そう、そいつ」


二階を指差すレオン。

彼の言葉に思考を巡らせると、彼の言う人物が思いあたった。


二階で休んでいるクレアは重傷だ。

骨折しているあの足では歩ける状態ではない。

もう暫く安静にしておいたほうがいいのだが。



どうしたものか、額に手を当て溜め息を吐く。


別に、彼女の事を忘れていた訳ではない。


只、様子を伺った時元気そうだったから、つい…




 「私が、どうかした…?」


 「嫌、その……」


話を聞いていたのかコウガに問いかける女性の声。


聞き覚えのあるその声に顔を上げると、目の前に先程話の話題に上がっていたクレアの姿がそこにあった。




 「あれ?クレア、怪我は……?」


あの怪我では独りで二階から降りてくるのは困難だ。


誰かの手を借りないと大変なのに、彼女は顔色1つ変えず目の前に立ち、レオンから奪ったパンをかじっている。




 「もう治った。言ったじゃないか、直ぐに治ると」


パンをくわえ言う彼女は松葉杖さえも持っていない。


確かに怪我の治りは早いとは言っていたが、これ程までとは。




レオンはその怪我の治りの早さに感心し、パンを奪われた事に気づいていない様子。


確かめる為か彼女の腹を殴ろうとするが、その腕は掴まれ捻り上げられてしまっていた。



痛みに声をあげるレオンを気にする事なく、クレアは2つ目のパンに手を伸ばす。




怪我も治り安心したが、食欲旺盛な彼女に呆れ、コウガは苦笑いするのであった。










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