Blood Tear
何て無力で、何て愚かなのだろう。
救いたい者も救えない、護りたい者さえ護れやしない。
そんな自分は能なしで、無能な存在だ。
暫く彼女を抱き締めた後、身を離したレグルは左耳に付けるピアスを引きちぎり、それを彼女の手に握らせた。
「…すまない、アンバー……」
その手を胸の前に組ませると、彼女を抱え湖手前まで歩いて行く。
そして彼は穏やかに眠る彼女を水面に乗せ、彼女を支えるその手を放す。
支えを失った彼女は重力に従い湖の中へと身を沈める。
綺麗な髪は揺れ、黒血は洗い流される。
今手を伸ばせば、そのか細い腕を掴む事ができる。
何処か深い闇に飲み込まれて行くそんな気がして、レグルは地につけていた手を湖の中へと突っ込んだ。
しかし、彼を止めるかのように隠れていた梟が音を立て羽ばたき、伸ばされた手を拒むかのように更に深く彼女は身を沈める。
その音に進める手を止めた彼は、遂に手の届かなくなった彼女を無言で見つめた。
青い双眼にその姿を焼き付けるようにじっと、見えなくなるまでずっと、彼は彼女の姿を瞳に映し続ける。
そして彼女は深い深い湖の底に、眠るように姿を消した。