Blood Tear


彼女の気に障るような事を言った筈なのだが、シェイラ自身は何を言ったのか検討もつかなかった。




 「やはり覚えていませんか。興味の無い事ですもの、仕方ありませんわ。ですが、今に思い出させて差し上げますよ、あの日の出来事を」


年期の入ったバイオリンにそっと触れ、彼女はその音を奏で始める。



それは彼女が幼い頃によく弾いていた、メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲ホ短調。



初めて出会った18年前のあの日も、確か彼女はこの曲を弾いていた。



とても綺麗で洗練された音色を奏でていると言うのに、その音には何の感情もこもらない。



喜びも悲しみも、怒りも苦しみも、楽しささえも感じない無感情な音色。



自分で望んで奏でていると言うよりも、誰かから無理やり弾かされているように音を奏でるその姿。



指は覚えた通り弦に触れ弓をひく。


途中で弦が切れ、演奏が途絶えた所で彼女はシェイラを見下ろした。










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