Blood Tear
「18年前のパーティーで、貴女はこう言ったんです」
机の上に音を立て両手をつき、目線の高さを同じにすると目を細める。
「『ティムリィ、貴女は幸せね。両親から深い愛情を注がれ大切に育てられて。誰からも愛され慕われる貴女が羨ましいわ』
そう言って、貴女は私を追い詰めた」
あの日の記憶が蘇る。
賑やかだったあの日のパーティーで、確かにその言葉を彼女に投げかけた。
それは事実だったから。
彼女は両親にとても愛され可愛がられて、従者達からも信頼を受け大切にされていた。
常に家族は傍に居て、何時も1人の自分とは異なる彼女が、両親と微笑み合う彼女のその姿が、とても幸せそうに見えたから。
だからシェイラは彼女にその言葉を投げかけた。
何も考えず、只思った事を口にした。
それが彼女を傷つけていたとも、追い詰めていたとも知らずに。
「その言葉を聞いた瞬間、怒りがこみ上げてきましたよ。愛情?愛されてる?羨ましい?羨ましいと、私なんかが羨ましいとそう思うのでしたら、変わって欲しかった。貴女と私が入れ替われる事ができたのならば、この立場を入れ替わって欲しいとさえも思いましたよ……」
拳を握る彼女は怒りを露わに荒い息を吐く。
良かれと思い発した言葉がこんなにも彼女を傷つけていたなんて、当の本人であるシェイラは思いもしなかった。
「…私の不適切な言動で貴女を傷つけてしまったのは謝ります。ですが、貴女は愛されていたではないですか。ご両親に大切に育てられていたのに、何故それを否定するような事を言うのですか……?」
「…私はね、貴女みたいに幸せなんかじゃないんですよ……愛情なんてそんなもの、誰一人として与えてくれませんでした……大切にされた事なんて、一度だってありません……」
悲しそうに細められるオレンジの瞳。
シェイラと向かいの席に腰掛けると深く息を吐く。